差し歯を白くしたいと相談したら、ジルコニア、e.max、ハイブリッドと次々に名前が出てきて、違いがよく分からなかった。
そんな声をよく耳にします。
元歯科医師でライターの三浦陽子です。
歯科のセラミックは、強さ、透明感、保険が使えるかどうかで、向いている場所がはっきり分かれます。
この記事では4つの種類の違いと、前歯・奥歯それぞれの選び方を整理します。
歯科のセラミックは、大きく4つに分けられます
「セラミック」と一口に言っても、中身は違います
日本歯科医師会のテーマパーク8020「さし歯・冠」では、被せ物を、金属の冠、金属に陶材を焼き付けた冠(メタルボンド)、レジン前装冠、オールセラミックなどに分けて説明しています。
このうち、白い被せ物として名前が挙がるのは次の4つです。
- ジルコニア(金属を使わないオールセラミック)
- e.max(二ケイ酸リチウムという、ガラス系のオールセラミック)
- ハイブリッドセラミック(セラミックの粒を混ぜたレジン)
- メタルボンド(金属の骨組みに陶材を焼き付けたもの)
同じ「セラミック」と呼ばれていても、ハイブリッドセラミックは歯科用のプラスチックであるレジンにセラミックの細かい粒を混ぜた材料で、焼き物のセラミックとは性質がかなり違います。
私は趣味で陶芸をしていますが、同じ土でも配合と焼き方で強さも色合いもまるで変わります。
歯の材料も同じで、名前より中身で比べるほうが迷いません。
4つの違いを一覧で比べます
| 種類 | 見た目 | 強さ | 主に使う場所 | 保険 |
|---|---|---|---|---|
| ジルコニア | 白く明るい。透明感はタイプによる | とても強い | 奥歯、ブリッジ | 使えない |
| e.max | 透明感が高く、天然の歯に近い | 強い | 前歯から小臼歯が中心 | 使えない |
| ハイブリッドセラミック | 白いが、透明感とつやは控えめ | 4つの中では低め | 前歯から大臼歯まで | 使える |
| メタルボンド | 自然だが、光が透けずやや暗く見えることも | 強い(中の金属が支える) | 前歯から奥歯まで | 使えない |
ここから、ひとつずつ見ていきます。
ジルコニアとe.maxは、金属を使わないオールセラミックです
ジルコニアは、強さで選ぶ素材です
テーマパーク8020では、セラミックはもろいため主に前歯や小臼歯に使うものの、ジルコニアは強度が高く大臼歯にも使えると説明しています。
噛む力が強くかかる奥歯や、何本かをつなぐブリッジで頼りになる素材です。
金属を使わないので、金属アレルギーの心配もありません。
e.maxは、透明感で選ぶ素材です
e.maxは、イボクラール社(Ivoclar)が作るガラス系のセラミックです。
メーカーのIPS e.max CADの製品情報では、曲げ強さは530MPaとされ、前歯や奥歯の被せ物、薄く貼り付けるベニア、第二小臼歯までの3本のブリッジなどに使えると説明されています。
光をほどよく通すので隣の天然の歯となじみやすく、前歯の1本だけを治すような場面でよく選ばれます。
透明感と強さは、両立しにくいものです
同じメーカーのジルコニアでは、強さを重視したタイプの曲げ強さが1,200MPa、透明感をいちばん高めたタイプでは650MPaと示されています。
ジルコニアのなかでも、見た目を天然の歯に近づけるほど強さは下がるということです。
「ジルコニアだから割れない」「e.maxだから自然」と名前だけで決めず、その歯に必要なのが強さなのか透明感なのかで考えるのが近道です。
ハイブリッドセラミックは、保険で選べる白い歯です
保険のCAD/CAM冠のことです
保険の白い被せ物は、正式にはCAD/CAM冠と呼ばれます。
セラミックの細かい粒を混ぜたレジンのブロックを、コンピューターで設計して機械で削り出して作ります。
2014年に小臼歯で保険に入り、その後、条件つきで大臼歯や前歯にも広がってきました。
大臼歯には、PEEK(ピーク)という、金属を使わない樹脂の被せ物も保険で選べます。
2026年6月から、すべての大臼歯で使えるようになりました
日本歯科医学会のCAD/CAM冠に関する基本的な考え方によると、2026年6月の診療報酬改定で、大臼歯用の材料を使う場合はすべての大臼歯に使えるようになりました。
それまでは、使える大臼歯に条件がついていました。
ただし同じ資料では、歯がはっきりすり減るほどの歯ぎしりがある場合や、歯の高さが足りない場合などは推奨できない症例とされています。
高い審美性を望む場合も、検討すべき事項に挙げられています。
保険で使えるかどうかは、制度だけでなく、その歯の状態でも決まるということです。
すり減りと変色は、知っておきたい弱点です
テーマパーク8020では、レジンはセラミックより柔らかく水を吸うため、長く使うとすり減ったり変色したりすることがあると説明しています。
費用の負担が軽いのは大きな利点です。
何年か先に作り直す可能性も含めて、納得して選べるなら十分に良い選択だと私は考えています。
メタルボンドと、自費の費用の目安
金属の骨組みに陶材を焼き付けた、昔ながらの方法です
私が臨床にいた1990年代から2000年代はじめ、自費の白い被せ物といえば、ほとんどがメタルボンドでした。
中の金属が支えるので丈夫で、長く使われてきた実績があります。
ただ、日本歯科医師会の広報誌でも触れられているように、土台が金属だと光が透けず、歯がやや暗く見えることがあります。
歯ぐきがやせてくると、根元に金属の縁が見えてくることもあります。
金属アレルギーが心配な方には向きません。
自費の費用は、1本10万円前後からが目安です
大学病院の料金表をひとつ例に挙げます。
愛媛大学医学部附属病院の保険適用外の料金(別表1)では、被せ物1歯あたりの税込金額が次のように定められています。
| 種類 | 1歯あたり(税込) |
|---|---|
| ハイブリッドセラミッククラウン | 71,500円 |
| メタルボンド | 110,000円 |
| e.max | 110,000円 |
| ジルコニア | 121,000円 |
個人の歯科医院では、これより安いところも高いところもあります。
金額だけでなく、仮歯の期間や、割れたときの保証があるかどうかも確かめておくと安心です。
自費のセラミック治療は医療費控除の対象になりうるので、しくみをインプラント治療の費用と医療費控除で確認しておくと、実際の負担を見積もりやすくなります。
迷ったときの選び方
前歯か奥歯かで、まず候補を絞ります
前歯で、周りの歯になじむ自然さを優先したいなら、e.maxか透明感の高いジルコニアが候補になります。
強い力がかかる奥歯でしっかり噛みたいなら、ジルコニアが向いています。
費用を抑えたいなら、前歯でも奥歯でも保険のCAD/CAM冠が選べます。
前歯は、1本だけ治すのか、何本かまとめて治すのかでも考え方が変わります。
1本だけのときは、両隣の天然の歯との色合わせがいちばん難しく、透明感のある材料が力を発揮します。
何本かまとめて治すときは、全体の白さをそろえやすいぶん、強さや費用とのバランスで選ぶ余地が広がります。
銀歯からの置き換えを考えている方は、銀歯とセラミック、どっちがいい?もあわせて読んでみてください。
歯ぎしりや食いしばりがある方は、先に伝えてください
材料を問わず、割れや欠けの大きな原因になるのが強すぎる力です。
日本歯科医師会の広報誌では、歯ぎしりのある人には金属を勧めることもあると紹介されています。
夜に歯ぎしりをしていると言われたことがある方は、材料選びの前に歯科医師に伝えて、ナイトガードの併用も相談してみてください。
噛み合う歯への影響は、研究でも意見が分かれています
硬いセラミックが、噛み合う相手の歯をすり減らすのではと心配される方もいます。
海外の論文を読んでも、どの材料がいちばん相手の歯にやさしいかは、研究によって結論が分かれています。
だからこそ、材料の名前より、噛み合わせの調整と表面の仕上げを丁寧にしてもらえるかどうかを大事にしてほしいと思います。
治療の前に、確かめておきたいこと
自費の被せ物は、できあがってから「思っていたのと違う」となっても、簡単にはやり直せません。
相談のときに、次のことを聞いておくと安心です。
- この歯に、保険で使える白い材料はあるか
- 自費にする場合の材料の種類と、1本あたりの金額
- 割れたり外れたりしたときの保証の期間と内容
- 歯ぎしりや噛み合わせについて、どう診断したか
- 色はどのように合わせてもらえるか
臨床にいた頃、色合わせのために、患者さんと一緒に自然光の入る窓辺で何度も見比べたことを思い出します。
遠慮せずにたずねてくださった方ほど、仕上がりに納得して帰られていました。
まとめ
- 白い被せ物は、ジルコニア、e.max、ハイブリッドセラミック、メタルボンドの4つに分けられる
- ジルコニアは強さ、e.maxは透明感が持ち味で、透明感を上げるほど強さは下がる
- 保険のCAD/CAM冠は2026年6月からすべての大臼歯で使えるが、すり減りと変色に弱い
- 自費の費用は大学病院の例で1本7万〜12万円ほどで、医院によって幅がある
- 歯ぎしりがある方は、材料を決める前に必ず伝える
焼き物は、器の用途に合わせて土と釉薬を選びます。
歯の材料も、どの歯に、どんな力がかかり、どこまで見た目を求めるかで、答えが変わります。
カタログの名前に迷ったら、「この歯には強さと透明感のどちらが必要ですか」と、歯科医師に一度たずねてみてください。