歯ブラシのあとに何か使ったほうがいい、と言われたけれど、フロスと歯間ブラシのどちらを買えばいいのか分からない。
そんな相談を、歯科の現場にいた頃から何度も受けてきました。
三浦陽子です。
先に結論を書きますと、選ぶ基準は好みや価格ではなく、あなたの歯と歯のあいだの広さにあります。
この記事では、その広さを自分で見分ける3つの目安と、口の状態ごとにどちらを選ぶか、サイズの決め方までを順に整理していきます。
デンタルフロスと歯間ブラシは、役割の違う道具です
はじめに押さえておきたいのは、この二つが「上位版と簡易版」の関係ではないという点です。
形が違えば、届く場所も、落とせる汚れも変わります。
どちらが優れているかではなく、どこに使うための道具かで考えると迷いが減ります。
糸で歯の側面をこすり取るデンタルフロス
デンタルフロスは、細い繊維をよって作った糸です。
歯と歯がふれあっている一番狭い部分(接触点)をくぐらせて、両側の歯の側面をこすり取ります。
厚生労働省のe-ヘルスネットに掲載されている歯間部清掃(デンタルフロス・歯間ブラシ)では、のこぎりのように前後へ動かしながら接触点を通し、手前の歯の歯肉のなかに糸が隠れるくらいまで入れてから、歯面に沿わせて掻き出す使い方が紹介されています。
奥側の歯にも同じ動きをするので、1か所に対して2つの面を掃除する道具です。
糸だけのタイプは、40cmほどに切って使います。
つまりフロスの得意分野は「面」です。
隙間がほとんどない場所にも入っていける薄さが、この道具の値打ちだと思っています。
毛先で隙間の汚れをかき出す歯間ブラシ
歯間ブラシは、細い軸に毛を植えた小さなブラシです。
歯と歯のあいだに空間があるところへ差し込み、数回往復させて汚れをかき出します。
同じe-ヘルスネットの解説によると、歯間ブラシには奥歯に使いやすいL字型と、前歯に使いやすいストレートタイプがあり、ストレートタイプは根もとを折り曲げて角度をつければどの部分にも使えます。
毛が三次元に広がっているぶん、一度に触れる面積が広く、へこんだ根の表面や、歯ぐきが下がってできた三角の空間にも毛先が届きます。
歯間ブラシの得意分野は「空間」です。
逆に言えば、空間のないところには毛先が入りませんから、ここが使い分けの分かれ道になります。
どちらも歯ブラシの代わりにはなりません
ときどき、フロスを始めたので歯みがきは軽めでいいですか、と聞かれます。
答えは、いいえです。
日本歯科医師会が運営するテーマパーク8020では、回数だけではなく、1日1回は歯ブラシに加えてデンタルフロスや歯間ブラシを用いた徹底的なブラッシングの習慣が身につくと心強い、と述べられています。
歯ブラシは歯の表側と裏側、噛み合わせの面を担当し、フロスや歯間ブラシは歯ブラシの毛先が入らない歯と歯のあいだを担当します。
担当する場所が違うので、足し算にしかなりません。
二つの道具の違いを、表にまとめておきます。
| デンタルフロス | 歯間ブラシ | |
|---|---|---|
| 形 | 細い糸 | 軸に毛を植えた小さなブラシ |
| 入る場所 | 隙間がほとんどない歯間 | 空間のある歯間 |
| 落とせる汚れ | 歯の側面にはりついた汚れ | 隙間にたまった汚れ、根のくぼみの汚れ |
| 苦手なこと | 広い隙間では糸が空を切る | 狭い場所には入らない |
| 主な種類 | 糸だけのロールタイプ、ホルダー付き | ストレートタイプ、L字型 |
使い分けの基準は「歯と歯のあいだの広さ」です
e-ヘルスネットの解説は、この点をひとことで書いています。
隙間の小さい歯間部清掃にはデンタルフロスが有効で、隙間のある歯間部清掃には歯間ブラシが便利、というものです。
ではその「小さい」「ある」を、自分の口でどう見分けるか。
判断のよりどころを3つに分けて説明します。
基準1 フロスがすっと入るか、きつくて入らないか
一番わかりやすいのは、実際にフロスを通してみることです。
- 抵抗なくすっと入り、糸を抜くときも軽い場所は、狭い歯間です。フロスの担当です
- のこぎり運動をしても入らない、無理に押し込むと歯ぐきに刺さるように痛む場所も、狭い歯間です。ここも歯間ブラシではなくフロスの担当です
- 糸を入れても両側の歯にふれた感じがせず、空を切るような感覚がある場所は、空間のある歯間です。歯間ブラシの担当になります
三つめの感覚は、慣れないうちは分かりにくいものです。
そういうときは、次の基準を合わせて見てください。
基準2 歯ぐきが下がって三角の隙間ができているか
歯と歯のあいだの歯ぐきは、健康なときは三角形にとがっていて、隙間をふさぐ蓋の役目をしています。
歯周病が進んだり、加齢で歯ぐきが下がったりすると、この蓋が縮んで下に落ち、歯と歯のあいだに小さな三角の空間があらわれます。
鏡の前で、下の前歯や奥歯の外側を見てみてください。
歯の根もと近くに、黒っぽい三角の隙間が見えるでしょうか。
そこが見えているなら、フロスだけでは面積が足りません。
歯間ブラシを足す時期です。
私が勤めていた頃、50代で歯周病の治療を終えた方が、フロスを毎晩きちんと通しているのに歯ぐきの腫れが引かない、とおっしゃったことがありました。
拝見すると、下の奥歯の根のあいだが大きくえぐれていて、糸1本ではその谷底に届いていませんでした。
歯間ブラシに替えていただいたら、2週間ほどで歯ぐきの色が落ち着きました。
道具の努力不足ではなく、道具の形が合っていなかっただけです。
基準3 同じ口のなかでも部位ごとに変わります
ここが見落とされやすいところです。
歯間の広さは、口のなかで一律ではありません。
前歯はもともと歯と歯がぴったり接していることが多く、フロスが向きます。
奥歯は歯の形が複雑で、根が二股に分かれていたり、側面がくぼんでいたりするので、年齢が上がるほど歯間ブラシの出番が増えます。
治療した歯が並んでいる場所も、被せ物の形によって隙間の広さがまちまちです。
ですから、どちらか一方に決めなければいけないと思わないでください。
前歯はフロス、奥歯は歯間ブラシ、という併用がむしろ自然な形です。
口の状態別に見る、どちらを選ぶかの目安
ここまでの基準を、より具体的な状況に当てはめてみます。
ご自分に近いものを探して読んでください。
治療した歯が少ない20代から30代の方
歯を削った経験が少なく、歯ぐきも下がっていない口では、歯と歯はしっかり接しています。
この段階でまず持ちたいのはフロスです。
歯間ブラシを入れようとしても、そもそも入りません。
無理に押し込めば、健康な歯ぐきを押しつぶすことになります。
今は空間がないのだから、糸で足りる。
そう受け止めていただければと思います。
歯周病の治療を受けている、または受けたことがある方
歯周病の治療では、歯ぐきの炎症が引くにつれて腫れが落ち着き、結果として歯と歯のあいだに空間が見えてきます。
治療前より隙間が広がったように感じるのは、多くの場合この変化です。
この状態では、歯間ブラシを軸にして、狭い部位だけフロスで補う組み合わせが合います。
歯科医院でどの部位にどのサイズを使うか教えてもらえるので、担当の歯科衛生士に遠慮なく尋ねてください。
矯正装置やブリッジ、インプラントがある方
ワイヤーの矯正装置やブリッジが入っていると、ふつうのフロスは上から通せません。
ブリッジは人工の歯が連結されていて、接触点から糸を落とす道がないためです。
e-ヘルスネットでも、ブリッジ部分は歯と歯がつながっているので、糸だけのタイプを針穴に糸を通すように入れて歯面に沿って動かす、と説明されています。
この通し作業を楽にするために、先端が硬くなっていて糸通し役を兼ねる「スーパーフロス」や、フロススレッダーという補助具があります。
インプラントの周囲は天然の歯より炎症が起きやすいので、ここも道具選びを自己流にせず、通院先で確認するのが安心です。
| 口の状態 | 主に使う道具 | 補いに使う道具 |
|---|---|---|
| 治療歴が少なく歯ぐきも下がっていない | デンタルフロス | 必要なし |
| 詰め物や被せ物が多い | デンタルフロス | 隙間が空いた部位に歯間ブラシ |
| 歯ぐきが下がって三角の隙間がある | 歯間ブラシ | 狭い前歯部にフロス |
| 歯周病の治療中・治療後 | 歯間ブラシ | 狭い部位にフロス |
| 矯正装置・ブリッジ・インプラント | スーパーフロスなどの補助具 | 部位に合う歯間ブラシ |
歯間ブラシは、サイズ選びで結果が変わります
歯間ブラシを買ってはみたものの痛くてやめてしまった、という話をよく聞きます。
原因のほとんどはサイズです。
ここは慎重に選んでいただきたいところです。
「隙間より少し小さめ」が原則です
e-ヘルスネットには、歯間ブラシのサイズは歯や歯肉を痛めないために歯の隙間より少し小さめのものを選ぶ、と書かれています。
ぴったりや、少し大きめではありません。
少し小さめです。
サイズは細いほうから4S、3S、SS、S、M、L、LLといった段階で分かれていますが、呼び方や太さの刻みはメーカーによって違います。
ライオンの歯間ブラシの適正サイズは?でも、歯間に無理なく挿入でき、きつく感じない程度を選ぶという考え方が示されています。
はじめての方は、一番細いものから試して、汚れが取れている感じがしなければ一段だけ上げる。
この順番が安全です。
入らないサイズを押し込んではいけません
大きすぎる歯間ブラシを毎日押し込むと、歯ぐきが徐々に下がってしまいます。
一度下がった歯ぐきは、自然には戻りません。
入らない場所に出会ったら、そこは歯間ブラシの担当区域ではないと考えてください。
入り口が狭いだけで奥に空間がある部位も確かにありますが、その見きわめは自分では難しいものです。
迷ったらフロスに戻す、という判断でかまいません。
出血したときは、やめる前に日数を見てください
使い始めに血がにじむことは、めずらしくありません。
歯ぐきに炎症があると、毛先がふれただけで血が出ます。
汚れが残っていた場所ほど出血しやすい、と考えると分かりやすいでしょうか。
多くの場合、同じ場所を毎日やさしく掃除していれば、1週間から2週間で出血は減っていきます。
反対に、次のようなときは自己判断で続けないでください。
- 2週間以上たっても同じ場所から出血する
- 痛みが強くなっていく、または歯ぐきが腫れてくる
- ぶよぶよした歯ぐきから、押すと白い液が出る
このあたりは歯周病の程度や噛み合わせも関わってきますから、歯科医院で診てもらったほうが早く解決します。
デンタルフロスを続けるための、小さな工夫
正しさより続くことのほうが、実際の口の中では効きます。
ここでは長続きさせるためのこつを挙げます。
ホルダータイプから始めてもかまいません
糸だけのロールタイプは、指に巻いて使うので慣れるまで手間取ります。
最初の一歩としては、柄のついたホルダータイプで十分です。
前歯にはF字型、奥歯にはY字型が使いやすい形です。
ライオンの歯間ブラシとデンタルフロスどっちがいい?でも、フロスは隙間が狭い部分に向き、子どもから大人まで使ってほしい道具として紹介されています。
続けるうちに、細かい操作が必要な場所だけロールタイプに移る。
その順番でも遅くはありません。
歯ぐきのなかへ1mmから2mm入れる意識を持つ
接触点を通すだけで満足してしまうと、肝心の汚れが残ります。
歯垢がいちばんたまるのは、歯と歯ぐきの境目より少し下です。
糸が接触点を越えたら、歯の側面に沿わせたまま、歯ぐきの中へそっと1mmから2mm沈める。
そこから接触点まで、面をなでるように引き上げる。
急がず、片側ずつ行うのがこつです。
同じ場所で毎回引っかかるときは、相談してください
フロスが特定の1か所だけでいつも引っかかる、けば立つ、切れる。
これは道具の不良ではなく、歯の側面の状態が知らせている合図かもしれません。
考えられるのは、虫歯で歯の表面がざらついている、詰め物や被せ物のふちに段差がある、といった原因です。
自分で削れるものではありませんので、次の受診時に「ここでフロスが切れます」と伝えてみてください。
場所を特定できている患者さんの情報は、診る側にとってとてもありがたいものです。
順番と回数について、よく聞かれること
道具が決まると、次は使い方の順番や回数が気になってきます。
研究で分かっていることと、分かっていないことを整理しておきます。
フロスは歯みがきの前か、後か
近年は、先にフロス、あとに歯みがきという順番を勧める歯科医院が増えました。
根拠のひとつが、2018年にJournal of Periodontology誌で報告された試験で、米国歯周病学会(AAP)もこの結果を紹介しています。
25人の学生を対象に、順番を入れ替えて比べたところ、フロスを先に使ってから歯をみがいたほうが、歯と歯のあいだの歯垢が減り、その部位に残るフッ化物の濃度も高くなりました。
先に歯間の汚れをどけておくと、あとから来る歯みがき剤のフッ化物が届きやすくなる、という筋道です。
とはいえ25人という小さな研究ですから、順番が絶対だとまでは言えません。
順番を気にして回数が減るくらいなら、やりやすい順で毎日続けるほうが実りがあります。
1日に何回使えばいいか
先に紹介した日本歯科医師会のテーマパーク8020では、1日1回は歯ブラシに加えてフロスや歯間ブラシを使う習慣が挙げられています。
歯垢が成熟して歯ぐきに害を及ぼすまでには時間がかかるため、毎食後に必ず、と構えなくてもかまいません。
続けやすいのは、夜の歯みがきのときです。
1日の終わりに一度だけ歯と歯のあいだを通し、朝は歯ブラシだけで済ませる。
その形で何十年も続けている方を、私はたくさん見てきました。
なお、厚生労働省の令和4年歯科疾患実態調査では、デンタルフロスや歯間ブラシで歯と歯のあいだの清掃をしている人は全体で50.9%と報告されています。
ようやく半分です。
続けている方は、それだけでもう少数派の側にいます。
両方使うべきか、片方でいいか
歯間ブラシとフロス、どちらが効くのかという問いには、研究の世界でもまだ決着がついていません。
コクランが2019年に公表した歯間清掃器具についてのレビューは、35件の試験と3929人のデータをまとめたものです。
歯肉炎については、1か月後と3か月後の時点で歯間ブラシのほうがフロスより改善させた可能性があると述べられていますが、歯垢についての結果は一貫せず、全体としてエビデンスの確実性は低いか非常に低いとされています。
効果の大きさが臨床的に意味のある差とは言えない可能性にも触れています。
この結果を私はこう読んでいます。
道具の優劣を競うより、自分の隙間に合う形を選んで毎日通すほうが確かだ、ということです。
歯周病学会が監修するペリオブックでも、歯ブラシ、フロス、歯間ブラシなどを必要に応じて組み合わせて、歯の表面のバイオフィルムを機械的に磨きとる方法がプラークコントロールとして紹介されています。
必要に応じて組み合わせる、という言い方が、実情に一番近いと感じます。
迷ったときは、歯科医院で自分の隙間を確かめてください
ここまで基準を並べてきましたが、鏡と手探りだけで判断しきれないこともあります。
そういうときの近道を、最後に二つ書いておきます。
プロに見てもらうと、部位ごとの指示がもらえます
歯科医院では、歯間の広さや歯ぐきの下がり具合を部位ごとに確認できます。
どの歯間にどのサイズの歯間ブラシを入れるか、どこはフロスにするか、実際に入れながら教えてもらえます。
言いにくいかもしれませんが、「フロスと歯間ブラシのどちらを買えばいいか分かりません」と伝えるだけで十分です。
ケアの指導は、歯科衛生士がもっとも力を発揮する仕事のひとつです。
遠慮される必要はありません。
道具は、一生同じではありません
若い頃はフロス1本で足りていた方が、40代、50代と年を重ねるうちに、奥歯だけ歯間ブラシが必要になる。
歯周病の治療をきっかけに、全体を歯間ブラシに切り替える。
そういう移り変わりは、ごく自然なことです。
歯間の形は、季節のようにゆっくり変わっていきます。
数年前に決めた道具をそのまま握りしめる必要はありません。
半年に一度の検診のたびに、いま自分の口に合っているかを確かめ直す。
それくらいの心持ちでよいと思います。
まとめ
デンタルフロスと歯間ブラシの選び方を、あらためて短くまとめます。
- 隙間がほとんどない歯間はデンタルフロス、空間のある歯間は歯間ブラシ
- 歯ぐきが下がって三角の隙間が見えたら、歯間ブラシを足す時期
- 前歯はフロス、奥歯は歯間ブラシという併用が自然な形
- 歯間ブラシのサイズは、隙間より少し小さめから試す
- 入らない場所に押し込まない。1日1回、夜に通せば十分
どちらを選ぶかで悩んでいる時間より、今夜1か所でも通してみる時間のほうが、歯ぐきには届きます。
最初はうまくいかなくてかまいません。
私も、患者さんに教える立場になってから自分の磨き方の粗さに気づいた人間です。
歯のことで迷ったときは、答えを一人で抱え込まずに、通っている歯科医院で口に出してみてください。
あなたの歯間の形を知っている人が、そこにいます。