歯みがきの途中で、歯ぐきや唇の裏に小さなふくらみを見つけた。
痛みはないけれど、見慣れないものがあると気になって、何度も鏡をのぞいてしまいますよね。
元歯科医師でライターの三浦陽子です。
口の中のできものの多くは原因のはっきりした良性のもので、治し方の道筋も決まっています。
この記事では、場所と見た目からの見当のつけ方と、早めに診てほしいサインを整理します。

口の中のできものは、場所と見た目で見当がつきます

口の中にできるふくらみには、いくつもの種類があります。
名前を知らないとどれも同じに見えますが、できた場所、色、硬さ、痛みの有無を組み合わせると、ある程度まで見当がつきます。

痛くないから大丈夫、とは限りません

最初にお伝えしておきたいのは、痛みの強さで重い軽いは決められない、ということです。
強く痛むアフタ性口内炎は1〜2週間ほどで自然に治ることが多い反面、根の先の膿の出口であるフィステルや、注意の必要な歯肉がんは、痛みの少ないまま続くことがあります。

臨床にいた頃、「痛くないから放っておいた」とおっしゃる方の歯ぐきに、何か月も前からの小さな穴が開いていたことが何度もありました。
痛みは体からの合図のひとつですが、合図が出ないまま進むものもある、と覚えておいてください。

できる場所と見た目の早見表

よく見かけるものを表にまとめました。
見当をつけるための目安ですので、診断は歯科医院で受けてください。

名前できやすい場所見た目・触った感じ痛み
粘液嚢胞下唇の内側、舌の裏青みがかった半透明の水ぶくれ。やわらかいほとんどない
フィステル神経が死んだ歯や、根の治療をした歯の根元の歯ぐきニキビのような小さなふくらみ。押すと膿が出る少ない
歯周膿瘍歯周病の歯のまわりの歯ぐき赤く広く腫れる出やすい
エプーリス歯と歯のあいだの歯ぐき歯ぐきから盛り上がったこぶふつうはない
骨隆起下あごの歯の内側、上あごの中央骨のように硬いふくらみ。表面の色は周りと同じない
アフタ性口内炎唇の裏、頬、舌など白っぽい浅いただれで、周りが赤い強い

私が臨床にいた頃、とくによく相談を受けたのは粘液嚢胞とフィステルでした。
この二つから順に見ていきます。

唇の裏や舌の下の水ぶくれは「粘液嚢胞」

唇を噛んだあとにできる、唾液のたまり

日本口腔外科学会の嚢胞についての解説によると、粘液嚢胞は、唇を噛んだり異物が刺さったりしたことをきっかけに、唾液の通り道が詰まったり破れたりして、唾液が漏れ出してできるものです。
下唇や舌の裏側に多くみられます。
下の前歯に近い唇の内側にできると、「歯ぐきにできものができた」と感じて来院される方も少なくありません。

触るとやわらかい水ぶくれのような感触で、少し青みがかって透けて見えることが多いものです。
食事中にうっかり唇を噛んだ覚えがあれば、まずこれを疑います。

潰れても、また膨らむなら摘出を相談します

粘液嚢胞は、潰れて中の液が出ると一度しぼみ、しばらくしてまた膨らむ、ということを繰り返しがちです。
自然に小さくなって消えることもありますが、同じ場所で何度も膨らむ場合は、手術で取り除くことになります。
先ほどの学会の解説でも、治療は嚢胞の摘出が基本で、原因になっている小さな唾液腺もいっしょに取るとされています。

気になって針で潰したり、歯で噛み切ったりするのはやめておきましょう。
傷から細菌が入るうえに、唾液の通り道が傷んだままなので、また同じものができてしまいます。

舌の下が大きく膨らむ「ガマ腫」

舌の下、口の底の部分が大きく膨らむものは、ガマ腫(ラヌーラ)と呼ばれます。
舌の下にある舌下腺という唾液腺の唾液がたまったもので、粘液嚢胞の仲間です。
大きいものでは、袋の一部を切り開いて中身を外へ逃がす開窓術という方法がとられることもあります。

歯ぐきの「ニキビ」はフィステル、根の先の膿の出口です

根の先にたまった膿が、歯ぐきに逃げ道をつくります

神経が死んでしまった歯や、以前に根の治療をした歯では、根の中に細菌が残り、根の先の骨の中に膿がたまることがあります。
これを根尖性歯周炎(こんせんせいししゅうえん)といいます。
済生会の根尖性歯周炎の解説では、たまった膿は歯ぐきを破って外に出てきて、そのときにできる穴を瘻孔(ろうこう)と呼ぶと説明されています。
この瘻孔が、歯科医院でフィステルと呼んでいるものです。

見た目は、歯ぐきにできた白っぽいニキビのようなふくらみです。
指で押すと膿が出たり、口の中に嫌な味が広がったりします。

膿が出ると痛みは引きますが、治ってはいません

フィステルのやっかいなところは、膿の逃げ道ができたぶん、痛みや腫れがむしろ軽くなることです。
済生会の解説にも、膿が外へ出ると痛みが軽くなり全身の症状も軽くなるが、治ったわけではない、とはっきり書かれています。
放っておけば根の先の病巣は残ったままで、まれに顔の皮膚の側に穴が開くこともあります。

治療は、根の中の掃除から始まります

治療の中心は、根の中の汚れや細菌を取り除いて消毒する感染根管治療です。
根の治療がうまくいけば、フィステルは自然にふさがっていきます。

ただ、同じ解説では、感染根管治療の成功率は60〜80%程度とされています。
それでも治らないときは根の先を外科的に処置する方法があり、最終的に抜歯になることもあります。
根の治療に何度も通う理由は、なぜ「歯の根の治療」は時間も回数もかかるのか?で詳しく書いていますので、あわせてご覧ください。

赤く大きく腫れて痛むなら、歯周膿瘍のことも

同じように歯ぐきが腫れても、歯周病が原因のものは歯周膿瘍と呼ばれます。
歯と歯ぐきのすき間の奥に膿がたまったもので、フィステルより広い範囲が赤く腫れ、痛みも出やすいのが特徴です。
どちらなのかは、レントゲンや歯周ポケットの深さを調べないと分かりません。

硬いこぶは、エプーリスや骨隆起のことが多いです

歯と歯のあいだが盛り上がる「エプーリス」

日本臨床口腔病理学会の口腔病理基本画像アトラス(エプーリス)では、エプーリスを、歯ぐきにできる腫瘍ではない限られた範囲の病変と説明しています。
歯石や合わない詰め物の縁などの慢性的な刺激や炎症に反応して、歯ぐきが盛り上がったものです。
歯と歯のあいだの、唇や頬の側の歯ぐきに多く、20〜40歳代の女性にやや多いとされています。

妊娠中にできるものは妊娠性エプーリスと呼ばれ、出産後に小さくなったり消えたりします。
それ以外のものは切除することが多く、刺激のもとになっている歯石や詰め物もあわせて整えます。

骨のでっぱり「骨隆起」は、たいていそのままで大丈夫です

下あごの歯の内側や、上あごの真ん中に、硬いふくらみがある方がいます。
これは骨隆起といって、骨が部分的に増えたものです。
同じ学会のアトラスでは、ゆっくり大きくなり症状はなく、通常は処置の必要はないとされています。
入れ歯を作るときに邪魔になる場合や、発音のさまたげになる場合には切除を考えます。

表面の粘膜は周りと同じ色で、押すと骨そのもののように硬いのが見分けどころです。
ある日ふと舌で触れて気づき、慌てて来院された方が、実は何年も前からあったものだった、ということがよくありました。

早めに診てほしいできものの特徴

2週間たっても治らないものは、一度診てもらいましょう

日本口腔外科学会は、ふつうのアフタ性口内炎は何もしなくても1〜2週間で治ると説明しています。
裏を返せば、2週間を過ぎても治らない、むしろ大きくなっているできものは、口内炎以外の可能性を考えて診てもらう時期です。
口内炎がなかなか治らないときの考え方は、口内炎が治らないときに疑うべきことにもまとめています。

次のような特徴があれば、様子を見ずに受診してください。

  • 2週間以上治らない、または少しずつ大きくなっている
  • 触ると硬く、周りとの境目がはっきりしない
  • 表面がでこぼこしていて、少しの刺激で出血する
  • 粘膜が白や赤に変わり、こすっても取れない
  • 歯が急にぐらついてきた、入れ歯が合わなくなってきた

歯肉がんは、歯周病とまぎらわしいことがあります

国立がん研究センターのがん情報サービス「口腔がん」では、歯ぐきにがんができると、歯がぐらついたり入れ歯が合わなくなってきたりすると説明しています。
どちらも歯周病でよく起こる変化なので、年齢のせいと思って見過ごされやすいところです。
日本口腔外科学会も、口腔がんはほかの潰瘍に比べて痛みが少ないことを特徴に挙げています。

怖がらせたいわけではありません。
口の中のできものの大半は、ここまでに挙げた良性のものです。
それでも、がんであれば早く見つかるほど治療の選択肢は広がりますから、迷ったら診てもらう、を基本にしてください。

受診先と、伝えると役に立つこと

まずはかかりつけの歯科医院で構いません。
かかりつけがない場合や、詳しい検査が必要な場合は、総合病院の歯科口腔外科が窓口になります。

受診の前に、次のことをメモしておくと診察がスムーズです。

  • いつ気づいたか、そのあと大きさは変わったか
  • 痛み、出血、膿が出るなどの変化があるか
  • 近くの歯を以前に治療したことがあるか
  • 気づいたときに撮った写真

写真は思っている以上に役に立ちます。
同じ角度で何日かおきに撮っておくと、大きくなっているのか縮んでいるのかが、診る側にもはっきり伝わります。

まとめ

  • 口の中のできものは、場所、色、硬さ、痛みの組み合わせで見当がつく
  • 唇の裏や舌の下のやわらかい水ぶくれは粘液嚢胞のことが多く、繰り返すなら摘出を相談する
  • 歯ぐきのニキビのようなふくらみはフィステルで、痛みが引いても根の治療が必要
  • 硬いこぶは、エプーリスや骨隆起のことが多い
  • 2週間以上治らない、硬い、出血する、白や赤に変わったものは早めに受診する

口の中は、自分の体のなかでもいちばん見えにくい場所のひとつです。
見慣れないものに気づいて不安になるのは、それだけ自分の体をよく見ている証拠でもあります。
鏡を何度ものぞいて一人で思い悩むより、一度診てもらって名前を知るほうが、気持ちはずっと軽くなります。