こんにちは。元歯科医師の三浦陽子と申します。
最近、「なんだか口の中が乾きやすい」「朝起きたときの口のネバつきが気になる」「以前より口臭が気になるようになったかもしれない…」といったお悩みを感じてはいませんか?
もし思い当たることがあれば、それは年齢とともにお口の「唾液力」が低下しているサインかもしれません。
私がクリニックで多くの患者様と向き合っていた頃も、特に50代を過ぎた頃から同じようなお悩みを相談される方が多くいらっしゃいました。年齢を重ねる中での自然な変化ではありますが、少し寂しい気持ちになりますよね。
でも、ご安心ください。唾液は、私たちのお口と身体の健康を守ってくれる、いわば天然の「お口の美容液」なのです。
この記事では、歯科医師としての知識と経験をもとに、ご自宅で誰でも簡単にできる「舌の体操」を中心として、あなたの唾液力を高め、潤いのある健やかな毎日を取り戻すための方法を、一つひとつ丁寧にご紹介していきます。
驚くほど多機能!唾液は天然の「お口の美容液」
「唾液」と聞くと、単なる水分のように思われるかもしれませんが、実は私たちの健康を守るために、実にたくさんの重要な役割を担っています。健康な成人では1日に1リットルから1.5リットルも分泌されているのですよ。
なぜ私が唾液を「お口の美容液」と呼ぶのか、その素晴らしい働きを見ていきましょう。
唾液が持つ7つの大切な働き
唾液には、主に以下のような働きがあります。
- 自浄作用:お口の中に残った食べカスや細菌を洗い流し、清潔に保ちます。天然のうがい薬のようなものですね。
- 抗菌作用:リゾチームやラクトフェリンといった抗菌物質が含まれており、虫歯菌や歯周病菌などの活動を抑えてくれます。
- 消化作用:アミラーゼという消化酵素が、ご飯やパンなどに含まれるデンプンを分解し、胃での消化を助けます。
- 再石灰化作用:食事によって酸性に傾き、少しだけ溶け出した歯の表面を、唾液に含まれるカルシウムやリンが修復してくれます。初期の虫歯を治してくれる大切な働きです。
- 粘膜保護・潤滑作用:お口の中の粘膜を潤いのベールで覆い、熱いものや硬いものなどの刺激から守ります。また、舌の動きを滑らかにし、会話や食事をスムーズにしてくれます。
- 緩衝作用:お口の中が酸性に傾くと歯が溶けやすくなりますが、唾液にはそれを中性に近づけ、歯が溶けるのを防ぐ働きがあります。
- 味覚作用:食べ物の味成分を溶かして、舌にある味を感じる細胞(味蕾)に届ける役割も担っています。
このように、唾液は私たちがおいしく食事をし、楽しく会話し、健康でいるために欠かせない、まさに縁の下の力持ちなのです。
もしも唾液が減ってしまったら…?心と身体に起こる変化
では、この大切な唾液が減ってしまうと、どのようなことが起こるのでしょうか。
- 虫歯や歯周病になりやすくなる
- 口臭が強くなる
- 口内炎や口角炎ができやすくなる
- 食べ物が飲み込みにくくなる(誤嚥性肺炎のリスクも)
- 味を感じにくくなる
- 入れ歯が安定せず、痛みが出やすくなる
- 風邪やインフルエンザなどの感染症にかかりやすくなる
お口の中のトラブルだけでなく、全身の健康にも深く関わってくることがお分かりいただけるかと思います。
「最近、口が乾く…」は年齢のサイン?唾液力が低下する原因
唾液の分泌量が減る原因は一つではありませんが、やはり年齢は大きな要因の一つです。
加齢だけではない、唾液が減るさまざまな要因
唾液力が低下する主な原因には、以下のようなものが挙げられます。
| 原因の種類 | 具体的な内容 |
|---|---|
| 生理的な変化 | ・加齢による唾液腺の機能低下や萎縮 ・噛む力の衰え ・女性ホルモンの減少(特に更年期以降) |
| 生活習慣 | ・ストレスや緊張(自律神経の乱れ) ・口呼吸 ・水分摂取量の不足 ・柔らかいものばかり食べる(咀嚼回数の減少) |
| 薬の副作用 | ・降圧剤、抗うつ薬、抗ヒスタミン薬(アレルギーの薬)など、一部の薬には唾液の分泌を抑える作用があります。 |
| 病気の影響 | ・糖尿病 ・シェーグレン症候群 ・腎臓の病気など |
特にご高齢になると、複数の要因が重なりやすくなります。しかし、原因が何であれ、唾液の分泌を促すためのケアを始めるのに遅すぎるということはありません。
あなたの唾液力は大丈夫?簡単セルフチェックリスト
ご自身の唾液力がどのくらいか、簡単なチェックリストで確認してみましょう。
| チェック項目 | はい / いいえ |
|---|---|
| 口の中が乾いて、ネバネバする感じがする | |
| 乾いたパンやクッキーが水分なしでは食べにくい | |
| 夜中に喉が渇いて目が覚めることがある | |
| 口臭が気になるようになった | |
| 以前より虫歯が増えたり、歯茎が腫れやすくなった | |
| 舌がひび割れたり、ピリピリと痛んだりすることがある | |
| 会話中に口が乾いて話しにくくなることがある | |
| 口内炎がよくできる、または治りにくい |
「はい」が3つ以上ついた方は、唾液力が低下している可能性があります。でも、心配しすぎないでくださいね。今日からご紹介する方法を、ぜひ試してみてください。
自宅で簡単!加齢に負けない「唾液力」を高める舌の体操
お待たせいたしました。ここからは、唾液力を高めるための具体的な方法をご紹介します。まずは、道具もいらず、いつでもどこでもできる「舌の体操」から始めましょう。舌を動かすことで、舌の下にある唾液腺(舌下腺や顎下腺)が刺激され、唾液の分泌が促されます。
まずは準備運動から。口周りの筋肉を優しくほぐしましょう
体操を始める前に、深呼吸をしてリラックスしましょう。肩の力を抜き、首をゆっくり左右に回して、口周りの緊張をほぐしてあげると、より効果的です。
【ステップ1】唾液腺を刺激する「舌ぐるぐる体操」
- 口を軽く閉じます。
- 舌先で、歯茎の外側をなぞるように、ゆっくりと大きく円を描きます。
- まずは右回りに5回、次に左回りに5回、ゆっくりと行いましょう。
頬の内側が伸びて、じんわりと唾液が出てくるのを感じられるかもしれません。
【ステップ2】舌の筋力を鍛える「舌の前後・左右運動」
舌も筋肉でできていますから、鍛えることで動きが良くなります。
- 前に出す運動:口を大きく開け、舌を「ベー」とできるだけ前に突き出します。5秒キープしたら、ゆっくりと元に戻します。これを5回繰り返します。
- 上下に動かす運動:舌を出し、鼻先に近づけるように上に伸ばして5秒キープ。次にあご先に近づけるように下に伸ばして5秒キープします。これを5セット行います。
- 左右に動かす運動:舌を出し、口角に触れるように右に伸ばして5秒キープ。次に左に伸ばして5秒キープします。これを5セット行います。
痛みを感じない、気持ちの良い範囲で行うことが大切です。
【応用編】口呼吸の改善にも「あいうべ体操」
「あいうべ体操」は、口周りと舌の筋肉を同時に鍛えることができる優れた体操です。 口をしっかり閉じる力がつき、無意識の口呼吸を鼻呼吸へと改善する効果も期待できます。
- 「あー」と、喉の奥が見えるくらい大きく口を開きます。
- 「いー」と、口を真横に大きく広げます。首に筋が浮き出るくらいが目安です。
- 「うー」と、唇をできるだけ前に突き出します。
- 「べー」と、舌をあごの先につけるようなイメージで、思い切り下に伸ばします。
この「あ・い・う・べ」を1セットとして、1日に30セットを目安に行いましょう。 声は出さなくても大丈夫です。お風呂の中や就寝前など、リラックスできる時間に行うのがおすすめです。
相乗効果でさらに潤う!舌の体操と組み合わせたい3つの習慣
舌の体操に加えて、以下の習慣を取り入れると、さらに唾液力アップの相乗効果が期待できます。
習慣1:直接アプローチする「唾液腺マッサージ」
唾液は「唾液腺」という場所で作られます。主な唾液腺は3つあり、ここを優しくマッサージすることで、唾液の分泌を直接促すことができます。 食事の前に行うと、食べ物が飲み込みやすくなるので特におすすめです。
- 耳下腺(じかせん):耳たぶの前あたり、上の奥歯付近にあります。人差し指から小指までの4本の指の腹で、優しく円を描くように10回ほどマッサージします。
- 顎下腺(がっかせん):あごの骨の内側の柔らかい部分にあります。耳の下からあごの先にかけて、親指の腹で数カ所を順番に5秒ずつ、優しく押します。
- 舌下腺(ぜっかせん):あごの真下、舌の付け根あたりにあります。両手の親指をそろえて、あごの真下から舌を突き上げるように、ゆっくりと10回押します。
習慣2:食事で唾液力をサポートする
毎日の食事でも、少し意識するだけで唾液力を高めることができます。
- とにかく「よく噛む」こと:噛むという行為そのものが、唾液腺への最大の刺激になります。 一口30回を目安に、ゆっくり味わって食べる習慣をつけましょう。
- 歯ごたえのある食材を取り入れる:ごぼうやレンコンなどの根菜、きのこ類、ナッツなどを食事に取り入れ、自然と噛む回数が増えるように工夫してみましょう。
- 酸味のあるものを活用する:レモンや梅干し、お酢などを料理に少し加えると、唾液の分泌が促されます。
習慣3:生活の中で意識したいこと
- こまめな水分補給:唾液の99%以上は水分です。 体内の水分が不足すれば、唾液も作られにくくなります。喉が渇く前に、水やお茶を少しずつこまめに飲むようにしましょう。
- 鼻呼吸を意識する:口で呼吸をすると、お口の中の水分がどんどん蒸発してしまいます。 意識的に鼻で呼吸するように心がけ、「あいうべ体操」で口を閉じる力を養いましょう。
- リラックスする時間を作る:強いストレスや緊張は、唾液の分泌を抑えてしまいます。 趣味の時間を持ったり、ゆっくりお風呂に浸かったりと、心と体を休ませてあげることも大切です。
まとめ
今回は、加齢に負けずに「唾液力」を高めるための、簡単な舌の体操や生活習慣についてお話ししました。
- 唾液は、お口と全身の健康を守る「天然の美容液」であること
- 唾液力は、加齢だけでなく生活習慣やストレスなど、様々な要因で低下すること
- 「舌の体操」や「唾液腺マッサージ」は、唾液の分泌を促すのにとても効果的であること
- 「よく噛む」「鼻呼吸」などの日々の小さな意識が、お口の潤いを育むこと
今日ご紹介した体操は、どれも数分でできる簡単なものばかりです。大切なのは、一度にたくさんやることよりも、毎日少しずつでも続けていくことです。
潤いのあるお口は、食事をおいしくし、会話を楽しくし、そして何より、あなたを病気から守ってくれます。それは、健やかで若々しい毎日を送るための、大切な土台となるはずです。
この記事が、あなたの「唾液力」を取り戻すための一助となれば、これほど嬉しいことはありません。あなたのお口の健康を、心から応援しています。